「あの人は大変そうに見えない」その油断が職場を壊す
9月は全国労働衛生週間の準備期間。安全衛生委員会でも例年この時期に議題に上がるテーマです。今回は職場内のストレスに焦点を当ててみました。
「うちの職場はみんな仲がいいし、大きな問題はない」。大阪府内の企業から労務相談を受けていると、こうした声をよく耳にします。しかし実際にストレスチェックの集団分析結果を見ると、同じ職場、同じ業務内容であっても、年代や役職によってストレスの「種類」がまったく違うというケースが非常に多く見られます。
本記事では、株式会社ドクタートラストが公表した2025年版ストレスチェック分析結果(約60万人・約2,000社のデータ)をもとに、世代・立場ごとのストレスの違いと、大阪の企業が安全衛生委員会や日々のマネジメントで今すぐ実践できる対策を、社会保険労務士の視点から解説します。
1. 高ストレス者率は横ばい13%台。しかし年代別の中身は大きく変化している

2025年に実施されたストレスチェック(対象約60万人・約2,000社)では、全体の高ストレス者率は13%台で大きな変動はなく、受検率も87〜88%前後で安定した水準を維持しています。
ところが年代別に見ると、動きはまったく異なります。
- 20〜30代:2022年をピークに改善傾向。ハラスメント防止対策の浸透が背景にあると考えられています
- 40代:15%前後で高止まり。プレイヤー業務と管理業務を掛け持ちする「板挟み世代」
- 50〜60代:緩やかな悪化傾向。役割の変化、定年延長、体力面の負担増加が影響しているとみられます
つまり「うちの会社は数字が安定しているから大丈夫」という見方だけでは、世代ごとに進行している変化を見落としてしまう可能性があるということです。
2. 高ストレス者の本質は「仕事の量」ではなく「やりがいの欠如」

今回の調査で特に注目したいのが、高ストレス者と判定された人に共通する回答傾向です。仕事の負荷そのものに関する設問では高ストレス者とそれ以外で8〜11ポイント程度の差だったのに対し、「仕事でやりがいや活力を感じられているか」という設問では30ポイントを超える差が確認されました。
これは、単に業務量を減らす対策だけでは高ストレス状態の改善につながりにくく、裁量・承認・成長実感といった「やりがい」の側面にまで踏み込んだ対策が必要であることを示しています。安全衛生委員会での議論も、労働時間管理だけでなく、この視点を取り入れることが重要です。
3. 立場が変われば、ストレスの「中身」も変わる

自社で実施したストレスチェックや面談の傾向を整理すると、典型的には次のような違いが見えてきます。
| 立場 | 典型的なストレスの中身 | 起こりやすい「すれ違い」 |
|---|---|---|
| 経営層・管理職 | 会社と部下の板挟み、成果責任の重さ、相談相手の不在、部下の労務管理負担 | 「もっと主体的に動いてほしい」と感じやすい |
| 中堅・実務リーダー | プレイヤー業務+後輩指導の二重負担、裁量に見合わない責任感 | 「自分で考えて」が伝わらないと感じる |
| 若手・新入社員 | 人間関係や評価への不安、失敗への恐れ、自分の役割が見えにくい | 「聞いていいのか分からず」一人で抱え込む |
| ベテラン層(50〜60代) | 役割の変化、体力面の負担増、若手とのコミュニケーションギャップ | 「昔はもっと厳しかった」という物差しのズレ |
隣の席の同僚が抱えているストレスは、自分のものとはまったく種類が違うかもしれません。管理職から見て「主体性が足りない」と映る若手の行動も、本人からすれば「相談していいタイミングが分からず抱え込んでいるだけ」というケースは少なくありません。
4. 大阪の企業が今すぐ取り組める4つのポイント

- 「大変そうに見えない人」ほど、別の負担を抱えている可能性を想像する 管理職研修や1on1で「元気そうな人ほど注意して見る」という視点を共有しましょう。
- 業務量だけでなく「やりがい・裁量・承認」にも目を向ける 評価面談やキャリア面談で、業務量の確認とあわせて「やりがいを感じられているか」を必ず聞く運用に変えます。
- 「聞いていいですか」を言いやすい空気をつくる 管理職からの声かけを起点に、若手が相談のタイミングに迷わない仕組み(定例1on1、相談窓口の周知など)を整えます。
- ストレスチェックの集団分析結果を、立場を超えた対話のきっかけにする 数字を「良い・悪い」で終わらせず、安全衛生委員会で世代別・部署別の傾向を共有し、対話の材料として活用します。
同じ職場で働いていても、見えている景色も感じている負担も、立場によって違います。「自分は大丈夫」ではなく「隣の人は何がしんどいのだろう」と想像することが、健康な職場づくりの第一歩です。
5. 安全衛生委員会・ストレスチェックの運用でお困りの大阪の企業さまへ
大阪綜合労務管理事務所では、大阪府内の企業さまを中心に、以下のようなご支援を行っています。
- ストレスチェックの実施代行・集団分析結果の読み解き
- 安全衛生委員会の議事運営・資料作成のサポート
- 年代・役職別のメンタルヘルス研修の企画
- 管理職向け1on1・面談スキル研修
- 高ストレス者対応や休職・復職に関する就業規則の整備
「数値は出たが、どう活用すればいいか分からない」「安全衛生委員会をもっと実効性のある場にしたい」といったお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ストレスチェックの高ストレス者率が低ければ、職場に問題はないと考えてよいですか?
A. 数値だけで安心するのは危険です。今回のデータでも、身体的不調やハラスメントに関する項目は不良回答率が低く出やすい一方、実際には申告のしにくさから数値に表れていない可能性が指摘されています。相談窓口の整備など、数値に表れない部分への継続的な対策が重要です。
Q2. 50人未満の事業場でもストレスチェックは必要ですか? A.
労働安全衛生法上、ストレスチェックの実施義務があるのは常時50人以上の事業場です。ただし50人未満の事業場でも、努力義務として実施が推奨されており、離職防止や生産性向上の観点からも取り組む企業が増えています。また、現在は努力義務ですが、法改正により2028年4月1日から義務化されます。
Q3. 世代間のギャップを埋めるために、まず何から始めればよいですか?
A. 特別な制度を新設する前に、まずは管理職向けの声かけ研修や、部署ごとの1on1の定例化など、日常のコミュニケーション設計を見直すことが効果的です。そのうえで安全衛生委員会でストレスチェックの集団分析結果を共有し、部署・世代ごとの傾向を対話のきっかけにすることをおすすめします。
出典:年代別データおよび高ストレス者の分析結果は、株式会社ドクタートラスト「2025年版ストレスチェック分析結果」(2025年受検者約60万人・約2,000社の集計、ストレスチェック研究所調べ)による。立場別の典型的なストレス内容は、職業性ストレスモデル(仕事の量的・質的負担、裁量権、対人関係、役割葛藤等)に基づく一般的傾向として整理したものであり、特定の統計調査のクロス集計結果ではありません。
(本記事は大阪綜合労務管理事務所が、社会保険労務士としての実務知見と公開データをもとに作成しています。)


